映画「激動の1750日」は1990年に公開された東映ヤクザ映画で、通称「山一抗争」と呼ばれる実際に起きた抗争事件を題材にとった志茂田景樹の小説「首領を継ぐのは俺だ」を原作としています。
本作の監督を務める中島貞夫氏は東映ヤクザ映画の黄金期を支えた立役者のひとりであり、「実録外伝 大阪電撃作戦」をはじめ「沖縄やくざ戦争」や「暴力金脈」など数々の名作を世に送り出しました。
本作が公開されたのは山一抗争の終結からわずか三年後であり、これは実話を題材とした実録ヤクザ映画の中でも類を見ないタイムリーな作品であると言えるでしょう。
今回は「激動の1750日」の詳細なあらすじと主要登場人物の設定について解説していきます。
「激動の1750日」あらすじ
プロローグ
一万二千を超える構成人員を擁し日本最大の勢力を誇るヤクザ組織・神岡組は、三代目組長と若頭を相次いで失ったことにより危機的状況にあった。
古参幹部のひとりである川勝組々長・川井勝司を三代目代行に据えた神岡組の執行部は、若手リーダー格の時津忠久を若頭に選出して体制の立て直しを図るが、時津は神岡組の解散を狙う兵庫県警に脱税の容疑で逮捕・収監されてしまう。
跡目争い
時津派の急先鋒である若竹正則は自身の兄弟分である成瀬勇と共に時津を四代目組長に就任させるべく工作に奔走するが、県警の目論見どおり若頭を失った神岡組は大きく揺れ、四代目組長に川井代行を推す古参組員と若頭の時津を推す若手組員の間に軋轢が生じ、水面下で激しい跡目争いの様相を呈する。
時津の出所を機に、三代目姐・神田ひろ子は神岡組の分裂を防ぐため三代目組長の若頭補佐を務めた古参幹部・荒巻重信に時津を四代目組長に推すよう説得するが、荒巻はこれを拒否。
説得を断られたひろ子は三代目組長の遺言を盾に、時津を強引に四代目組長の座に就任させる。
分裂
時津の四代目襲名に納得のいかない川井派は神岡組を離脱し、川井を会長に据えて八矢会を旗揚げするが、川井派の主力メンバーで八矢会副会長の岩間直秀が就任早々に腹心の組員らの説得を受けて八矢会を離脱し、自身の引退を条件に組員らを神岡組に復帰させるなどその体制は磐石とは言い難いものだった。
四代目体制となった神岡組が暑中見舞いの体で八矢会の面々に対する絶縁状を発したことを機に両者の対立はいよいよ深まり、全面戦争に突入する。
組長の死
数で勝る神岡組の有利かと思われたが、八矢会系荒巻組々員・力石竜二が時津を襲撃・射殺する。
組長を失った神岡組は緊急幹部会を招集し、四代目代行に古参幹部である兵頭七郎を、若頭に若竹を据えて八矢会に対抗する体制を整える。
一方、時津の殺害に成功した八矢会は時津殺害の実行犯である力石を淡路島の本堂組に逃亡させるが、居場所を突き止めた神岡組が本堂組を急襲。それを察知した本堂組々長・本堂高道が身代わりとなって力石を逃がそうとするが、力石は本堂を見捨てることができず自ら刺客たちの許に引き返し、数え切れないほどの銃弾を浴びて絶命する。
抗争終結
抗争の激化に伴って八矢会幹部が続々と引退を表明する中、川井と八矢会副会長兼理事長・荒巻重信は神岡組への攻勢を強めるが、数で劣る八矢会は次第に追い詰められ、敗北を悟った荒巻は自らの頭を銃で撃ち抜く。
長引く抗争を重くみた関東仁王会が調停を申し出ると敗色が濃厚だった八矢会はそれを快諾、当初は八矢会との和解に難色を示していた若竹も関東仁王会々長・仁王顕正の説得を受けて和解に合意し、川井の八矢会々長引退を条件に三年間の長きにわたる抗争が終結する。
「激動の1750日」登場人物
若竹正則(中井貴一)
四代目組神岡組若頭で本作の主人公。時津忠久亡き後、八矢会との抗争を率いた神岡組きっての武闘派ヤクザ。人望が厚く面倒見が良い一方で非情さも持ち合わせており、力石竜二が時津殺害の実行犯だと知ると公私ともに親交の深い間柄であったにもかかわらず容赦なく命を狙った。モデルは五代目山口組々長・渡辺芳則氏。
成瀬勇(中条きよし)
四代目神岡組若頭補佐。明晰な頭脳を活かして若竹を補佐する優秀なブレイン。根回しに長けており、四代目体制の地盤固めに加え、関東仁王会の仲裁を渋る若竹を説得するなど抗争の終決にも大きく貢献した。モデルは五代目山口組若頭・宅見勝氏。
時津忠久(萩原健一)
四代目神岡組々長にして若竹と成瀬の兄貴分。その人望の厚さとヤクザとしての実力を見込まれて神岡組の若頭に抜擢されるが脱税の容疑で収監、四代目神岡組々長に就任するも早々に一和会のヒットマンに射殺されてしまう悲運の人物。モデルは四代目山口組々長・竹中正久氏。
荒巻重信(渡瀬恒彦)
八矢会副会長兼理事長。三代目神岡組の勢力拡大に体を張って貢献してきたという自負から時津の四代目就任に激しく反対する。時津が四代目組長の座に就くと神岡組を離脱して八矢会を結成し、八矢会きっての武闘派として神岡組との抗争を牽引するが、敗北を悟ると銃で自らの頭を撃ち抜いて壮絶な最期を遂げる。モデルは一和会副会長兼理事長・加茂田重政氏。
川井勝司(夏八木勲)
八矢会々長。三代目代行に抜擢されるも人望の低さから時津に四代目組長の座を奪われ、荒巻ら古参幹部を率いて八矢会を結成する。八矢会の会長であるにもかかわらず副会長兼理事長の荒巻に比べると存在感は薄いが、ヤクザとしての気骨は充分。モデルは一和会々長・山本広氏。
岩間直秀(中尾彬)
八矢会副会長。荒巻や川井らと共に四代目体制の神岡組を離脱し、副会長として八矢会の一員に加わるが組員に説得されて自身の引退を条件に組員らを神岡組に復帰させた組員思いのヤクザ。コワモテの外見とは裏腹に穏健派であることが窺い知れる。モデルは三代目山口組若頭補佐兼本部長・小田秀臣氏。
力石竜二(陣内孝則)
八矢会系荒巻組々員。若竹を実の兄のように慕っていたが親分である荒巻と共に神岡組を離脱、若竹と敵対関係となってしまう。神岡組の襲撃から間一髪で逃れるなど強い悪運の持ち主だが、自ら神岡組の刺客の許に引き返して壮絶な最期を遂げた。モデルは一和会常任理事・石川裕雄氏。
神田ひろ子(岡田茉莉子)
三代目神岡組々長夫人。三代目姐さんとして先代亡き後も神岡組の行く末を案じ、遺言書を名目にして半ば強引に時津を四代目組長に就任させた。モデルは三代目山口組々長・田岡一雄氏の妻である田岡フミ子氏。
仁王顕正(丹波哲郎)
関東仁王会々長。神岡組と八矢会の長引く抗争を憂慮して仲裁に乗り出した関東ヤクザ界の超大物。ちょい役であるにもかかわらず存在感は大きい。モデルは稲川会総裁・稲川聖城氏。
「激動の1750日」ネタバレ結末
- 日本ヤクザ史上最大の抗争といわれる「山一抗争」を題材にしたヤクザ映画
- 山一抗争の終結からわずか三年後に公開された
- 中井貴一や渡瀬恒彦をはじめ豪華キャスト陣が終結
「激動の1750日」は山一抗争と呼ばれる実際に起きた山口組と一和会の抗争事件を題材にしたヤクザ映画です。本作は山一抗争の終結からわずか三年後、登場人物のモデルとなった人物の大多数が存命しているという状況の中で公開され、そのタイムリーな内容からヤクザ映画ファンの間で高い評価を獲得しました。
また主演の中井貴一をはじめ、渡瀬恒彦や三上真一郎、志賀勝、野口貴史ら東映実録路線を支えた面々に加え、中条きよしや陣内孝則、萩原健一、中尾彬、丹波哲郎、有森也実といった錚錚たる顔ぶれが画面を彩っています。
「激動の1750日」は実録路線に連なる作品でありながら古き良き任侠映画の雰囲気を残しているので、ヤクザ映画ファンの方は是非ご覧になってみてください。